【K.Yairi Custom Shop BY KEN-388 Kenji Koike Vintage Sitka Spruce & Jacaranda】
一本のギターが完成するまでに数か月を要することは珍しくない。しかし、本器「K.Yairi Custom Shop BY KEN-388」に流れている時間は、その尺度では語りきれない。
トップに選ばれたシトカスプルースは、1980年よりヤイリギターの工房で静かに保管されてきたもの。40年以上の歳月を経て、この一本のために初めて楽器としての命を与えられた材である。サイド&バックには、先代から受け継がれ、20年以上にわたり大切に保管されてきたブラジリアン・ローズウッドを採用する。
本器を手掛けたのは、K.Yairi Custom Shopを長年支えてきたマスタービルダー・小池健司氏。「サウンドメッセ in 大阪 2026」のためだけに製作された本器は、イベントモデルという言葉だけでは収まりきらない。長年にわたって培われた小池氏の技術と美意識、そしてヤイリギターが守り続けてきた手工製作の精神が、一つの作品として結実した一本である。
1980年から保管されてきたヴィンテージ・シトカスプルースは、長い年月を経て落ち着いた飴色の表情を見せる。細く均整の取れた年輪が並ぶその木肌には、新しい材にはない時間の深みがあり、音色にも素早い立ち上がりと軽やかなレスポンスを感じさせる。
そこへ組み合わされるブラジリアン・ローズウッドは、豊かな低域を支える密度感と、透明感のある高音、複雑に重なり合う倍音が魅力。シトカスプルースの素早く素直な反応と相まって、深みがありながら重くなりすぎず、明瞭でありながら硬質になりすぎない、絶妙なバランスを生み出している。
ネックにはワンピース・マホガニー、指板とブリッジにはエボニーを採用。楽器全体の一体感と音の輪郭を支えながら、ブラジリアン・ローズウッドの深い色味とも美しく調和する。
そして本器には、小池氏が掲げた「渋さと可愛さの両立」というテーマが随所に息づいている。ヴィンテージ材の落ち着いた風格を基調としながら、わずかに丸みを帯びたヘッド形状、ロゼッタやボディを彩るブルーアバロン、12フレットに配された赤と青の薔薇がさりげない遊び心を添える。ブリッジに記された「Ken」のサインも、一人の職人がこの一本に責任を持って向き合った証のように映る。
そして弦を鳴らした瞬間、本器が単なる希少材の集合体ではないことが分かる。
FKボディらしい「ポコン」とした温かな低中域。その上を、ブラジリアン・ローズウッド特有の「キラキラ」とした透明感のある倍音が軽やかに重なっていく。温かな木質感と煌びやかな倍音が互いを引き立て合い、豊かな箱鳴りと濃密な振動を生み出す。弦を弾くたびにボディ全体が呼応するような感覚は、本器ならではの魅力である。
小池氏が掲げた「音量よりも質、バランスを狙った」という思想も、音を聴けば納得できる。スケール635mm、ナット幅43mmという扱いやすい設計は、フィンガースタイルでは繊細なニュアンスを引き出し、ストロークでは小ぶりなFKボディを忘れさせるスケール感を生み出す。弾き手のタッチに対して素直に表情を変える、懐の深い一本である。
40年以上の時間を重ねたシトカスプルースと、20年以上受け継がれてきたブラジリアン・ローズウッド。そして小池健司氏が積み重ねてきた経験。その異なる時間が、2026年、一本のギターとして結ばれた。
しかし、本器の物語はここで終わらない。
これから弾き込まれ、演奏者のタッチと音楽が刻まれていくことで、また新しい時間が始まる。長い年月を眠っていた木材が、一人の職人によって音楽を奏でる存在となった。その続きを受け継ぎ、自分だけの歴史を刻んでいく。
二度と同じ条件では生まれないからこそ、この一本との出会いもまた一期一会。所有する歓びだけでなく、未来へ向けて育てていく歓びまで味わわせてくれる、特別なK.Yairi Custom Shopである。
付属品については下記参照。
クロサワ楽器 日本総本店アコースティックギターフロア
お電話 03-5386-9630
E-Mail htn@kurosawagakki.com
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